第33号 法友工体連会報を4回に渡り,毎週火曜日に公開していきます.
ーワンダーフォーゲルOB会50周年記念事業、海外遠征ー
標高4,900mの頂で歌った校歌
ワンダーフォーゲル部OB会会長松尾 秀文’76卒
2014年、我ワンダーフォーゲル部創部50周年を迎える。
数年来、記念行事についてOB会で検討を進めてきた。これまで周年記念行事は、学生側で海外遠征を企画し、OB会はもっぱら後方支援、資金的な援助を行ってきた。
OB会も高齢化が進み、中心で活動しているOBの多くが60代に入り、気力・体力・資金力が有るうちに、個人では行けない地域に行って見たいという声が高まり、50周年では現役とOB合同の遠征にしようという企画がスタートした。
時間的・資金的・内容的に中国の山が最適という結論に達し、具体的には四川省最高峰7,556mのミニアコンカ山域・美人谷として有名な丹把・そして高山植物が咲き乱れ、自然遺産となっている四姑娘山周辺をフィールドとし、メインイベントとして大姑娘山(5,025m)への登頂という計画を立てた。
すべての手配が整った今年4月下旬に発生した四川省雅安の地震は、まさに遠征予定のコースの真ん中で発生し、その後余震も続き、道路の安全面・その他リスクを考え、断念する事となった。遠征の日程は8月4日からと決めており、残された時間は少なく、急遽代案を作る事とした。
その結果、雲南省チベット自治州に有る梅里雪山( 標高6,740m)の麓で、徒歩か馬でしか行けないと云う「ユイポン村」を訪ね、素晴らしい山群を満喫しながら高度順化を済ませ、メインイベントとして、まだ未踏峰?という王冠峰(標高4,800m)の登頂を目指す計画がまとまっていった。
一日目:8月4日(日)羽田の国際線にOB12名・学生2名の総勢14名が集まり遠征がスタートした。
本来同地域の8月は雨期にあたり、ベストシーズンとは言えない。今年も7月中は大雨が続き、その後の予報もずっと雨続き、どんな結果になるか正直不安を抱えての出発となった。
二日目:上海・昆明を経由し、標高3,200mのシャングリラに入る。薄い空気と気圧の為、早くも体調異常を訴える隊員も。その日は高度順化の為、3,900m程度の峠まで車で上がり、周辺の眺望と高山植物を楽しみ、明日からの高所への旅に備えた。
三日目:梅里雪山山群を目の前に見る事が出来る「飛来寺」までバスで移動、標高は3,400mである。道中、絶景の連続で寝る暇もない。急峻な山肌と渓谷を縫うように走る・・・不安定な崖と渓谷の深さに不安を覚えていると、大きな落石の直撃を受け、大破した大型車が2台放置されていた。今、正に自分たちが通っている道路の状況を理解し、バスの中は一時大騒ぎとなった。
無事目的の飛来寺へ到着、最後の登りはこれまた工事中で、危ない心細い道を抜けてようやくホテルへと入った。中国の工事現場は道路も建物も安全対策が全くなく、危険極まりない。でもここは中国、慣れるしかない。
四日目:今日からは、いよいよユイポン村へのトレッキングだ。重光さんが風邪で体調を崩し、病院の有る町まで一時退避する事になった。その他のメンバーは元気一杯、美しいユイポン村へと向かった。
その登山口となる西当までがさらに悪路で、メコン川上流の深い渓谷に沿い、進んで行った。やっと登山口到着。馬に乗ってみたいグループと歩きたいグループの二手に分かれてユイポン村を目指した。登山口の標高2,600m、峠は3,600mで標高差1,000mを登り、峠からは全員徒歩で600m下がる。馬組は楽々ユイポン村に到着、徒歩組も夕方には元気に目的地に到着した。宿泊の施設は想像よりはるかに快適で、部屋も広く料理も美味しかった。
五日目:いよいよ梅里雪山内院を目指すトレッキングとなる。
希望により神滝と、かつて日中登山隊17名が遭難死したという、梅里雪山登頂のベースキャンプとなったカール部の2コースに分かれてトレッキングを楽しんだ。生憎の雨模様となったが、途中の繊細な景色が素晴らしく、雨もあまり気にならなかった。そして目標の場所に立った時、その雄大さに感動し、しばらく見惚れ至福の時間を満喫した。
六日目:まさにユートピア、美しいユイポン村を後にし、飛来寺のホテルへと戻った。(また、あの危険な悪路の道を)
・七日目:今日は明栄氷河~主峰カワカブ(標高6,740m)から流れる世界で最も緯度の低い所に在る氷河である。
こちらはほとんど観光地といった感で、中国や韓国・欧米等からの観光客が大勢訪れていた。途中、韓国人の若者三人が付いてきたり、休憩していると中国の幼い女の子がウズラのゆで卵をくれたりと、友好的な雰囲気の中で素晴らしい景観を楽しんだ。明日はいよいよ王冠峰へのチャレンジの日だ。早めに床に入った。
八日目:いよいよ遠征のメインイベント「王冠峰」へのチャレンジの日だ。朝の出発が遅れ、予定より一時間程度遅れて登山口の峠に到着した。目標の山頂が見える、皆で意気揚々と標高4,200mの峠を出発した。
皆体調が良いようで、珍しい高山植物が咲き誇る中、順調に高度を上げて行った。峠近辺ではもう見る事が出来ない「青いケシの花」も高度を上げるに従って、あちこちに見られるようになった。ここは高山植物の宝庫だ。色々な高山植物がそこら中に群生していて本当に美しい。
皆の順調な足取りに「もしかしたら、全員で頂上に立てるのかも」と甘い期待を持った。高度を上げるにつれ雨が降り出し、山はガスに包まれていった。標高4,600mを過ぎる頃、女性隊員3名を含む5名が登頂を断念し、山を降りる事となった。
王冠峰は、頂上付近に王冠型の奇岩が連なる名峰という事で、特に決まった登山ルートは無い。劉さん・林さんの二人のガイドの案内で慎重に登って行った。標高、4,750mを超えても、「もうすぐ頂上」という雰囲気にならない。
この辺からルートも険しく浮き石も多くなり、危険を感じるようになった。落石に気を使い、慎重にゆっくり進まざるを得ない状況となった。さらに朝の出遅れが響いて来て「どうやらピークに立つのは難しいな」と思うようになった。険しい難所をなんとか越えたが、標高が4,900mを超えても頂上が現れない。
時間的にここでタイムアウトだ。この地点で用意してきたタルチョ(チベット仏教の神聖な旗)を岩に結び付け、登頂計画は終了。
頂上に残す予定だったタルチョには、全員の名前と思い思いの一言が書いてある。ピークに立つ事は出来なかったが、それぞれに全力を出しきった達成感で晴れ晴れとした顔をしていた。「ここで校歌を歌おう」と云うメンバーの提案で校歌斉唱。続いて法政とワンゲルのエールを高々と上げ、僕たちの挑戦は終わった。
先に山を降りたメンバーもトランシーバー越に聞こえる校歌に「登頂成功」と勘違いしたか?涙が出る程感動したと言ってくれ、まさに心が一つになった瞬間だった。下山は別のルートを通り、シオガマという高山植物のピンクや黄色の大絨毯の中をあっという間に降りて行った。
頂上に立てなかった無念さは霧散して、この世のものとは思えない美しい景色に酔いしれ、夢中でシャッターを切った。
この遠征を通じ、「良き友」がいる事の有難さを実感し、改めて一生の宝物を得た思いがする。
最後に、献身的に尽くしてくれたツアーガイドの劉さんにこの紙面を借りて、感謝の言葉を送りたい。「最高の旅を、本当にありがとう」