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第10号 法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科同窓会報を4回に渡り,毎週火曜日に公開していきます.


 

環境共生型持続可能なまちづくり

空間分析研究室 宮下清栄
 渡部先生の着任で誕生した都市計画研究室も高橋先生により更に都市プランニング系の中心研究室となっていますが、2007年度より都市計画研究室から分離独立して空間分析研究室を立ち上げました。あえて都市(urban)でなく近年欧米で都市や地域を包括して三次元的な計画の必要性から空間(Spatial)が一般的に用いられていることに習い「空間分析研究室」と命名しました。
 主な研究課題としては、①環境情報データベースの構築、②戦略的環境アセスメント(SEA)導入検討、③環境価値の計測、④緑地分布計測による環境軸の構築、⑤環境的に持続可能な交通、⑥アメニティを考慮した空間評価手法の検討、⑦防犯環境設計⑧市民参画を促すための合意形成手法の検討などを中心に研究を進めております。
 ご存じのように、人口減少社会を迎えコンパクトなまちづくりが叫ばれておりますが、一方で国土保全の観点から中山間地の重要性も指摘されております。欧米では80年代からこれらの問題に対応している先進都市が多くあり、フライブルク(ドイツ)、ストラスブール(フランス)、ポートランド(アメリカ)などを現地調査して驚きと今後の方向性を得ることができたことが、現在の研究に繋がっております。環境首都としてのフライブルクでは資源やエネルギーに関しての環境共生はもとより中心市街地再生を土地利用と交通政策が一体的に行われ総合交通計画の重要性を改めて理解しました。ストラスブールも基本的な政策は同じですが、更に都市交通レベルから都市レベルでトラムを活用しアーバンデザインにまで発展させいることは政策とともにデザインセンスまで重要視する必要性を強く感じました。いづれにしても、国民の誰もが容易に、低コストで快適に移動できる権利として「交通権」が保障されていることが背景にあり日本との大きな違いであります。

また、公共空間整備政策として道路空間の再配分から都市空間の再配分にまで進んでおり今後の成熟型都市の公共空間の整備政策の在り方を示唆されました。一方、自動車社会であるアメリカでも州レベルで総合計画(Comprehensive Plan)を策定し都市成長境界線(Urban Growth Boundaries)の設定を義務化しているオレゴン州のポートランドは「人々が集い楽しめる街」をコンセプトに全米で唯一の地域政府メトロにより土地利用計画と交通計画は一体なものとして成長管理と交通計画を広域連携の主目的として実施されています。中心市街地の公共交通無料地区では旅行者も全ての公共交通が無料で利用できることに改めて肌で感じることができ、公共交通の運営のあり方を日本でも改めて議論する必要性を感じられずにはいられません。住民の「生活の質」を更に向上させることが目的であり、そのためのキーワードが「ニューアーバニズム」や「スマートグロース」であり、研究室でも「賢い成長:SmartGrowth」を目標に掲げています。メトロの特筆すべき点として住民参画システムの充実と情報データベースの一元管理の基で市民との情報共有システムの確立があげられます。GISにより全ての都市計画関連データがデータベース化され空間分析や計画立案の支援システムとなっています。これらを基に「生活の質」の向上を目指すためのモデルを構築し各種シミュレーションを実施し代替案の比較検討をすることを使命として掲げている点です。このような先進都市に学ぶと共に、我が国でも実施するために地理情報システム(GIS)を基本ツールとして都市や環境などあらゆるデータのデータベースの構築とともにシミュレーションの実現可能性を探っています。また、生物多様性やヒートアイランドの解決のための基礎的要素を「緑地」と考え、緑地を質と量の両面から把握するためにリモートセンシングの研究もおこない始めています。
 
 また、フランスのコンセルタシオンをはじめ住民参画の徹底と住民に分かりやすい情報の提示は今後のまちづくりには不可欠でありそのためにニューアーバニズムを実現するために考え出された「シャロットモデル」などを住民合意形成に活用する手始めとして、都市再生に3次元バーチャルリアリティ(VR)の活用を研究し始めております。学科の市ヶ谷展開に合わせエコと歴史の観点から外濠周辺の蛍舞う都市再生VR(基本コンセプトは校歌に歌われている「蛍集めむ門の外濠」)を作成しました。このVR作品がフォーラムエイト主催の「第6回3D・VRシュミレーションコンテストby UC-win/ROAD」で審査員特別賞 芸術賞を受賞しました。これらを励みに学生と協力して研究を行っております。
 新しい都市づくりや都市再生では環境や財政面の制約のみならず、高いアメニティや斬新なコンセプトが求められています。「都市空間の再配分」と「環境共生」を基本に、住民参加やコンセンサスを得ていくうえで、意義やイメージが伝わる分かりやすくビジュアル的なデータ化と、限りある空間を有用に活用すべく“鳥の眼”と“人の眼”を駆使してまちづくりに貢献したいと考えています。さらに、公共事業評価のための費用便益分析の知識を身につけさせたいと基礎的な検討を行える程度取り組みをしております。
 研究室の標語として「おれより遅く来てはいけない、おれより早く帰ってはいけない」と「Try and Error」を掲げておりますが、学生たちは………
 小職の至らない点はOBの皆様のお力をお借りしたいと存じます。今後ともOB諸兄の御支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。