第12号 法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科同窓会報を4回に渡り,毎週火曜日に公開していきます.
「デザイン工学部の展望」
デザイン工学部 都市環境デザイン工学科主任 高見公雄 教授
1.主任を仰せつかって
法土会のみなさまこんにちは。昨年は新任教員として前号(第11号)に書かせて頂いた私が、今回は主任からの話、ということで紙面にお邪魔します。少し不思議な気もしますが、よろしくお願いいたします。着任初年度が終わろうとしている頃、それ以前より風の便り的に聞こえたりもしてはいましたが、「来年度学科主任をよろしく」という教室会議の決。自分の交通費の精算方法すらあやふやな身で学科全体の運営をこなさなくてはならない、不安は通り越して、ま、開き直りの境地でした。
4月の新学期には、工学部生を含め5学年(?)分のガイダンスを行い、私より先に当学科に入っている学生にまで、あれこれと説明をしたものです。主任の重要な役割は教室会議の運営。月2回のペースでここまで8回の教室会議を開催しました。当然のことながら毎回、薄氷を踏む思いで。なかなかさばけていて良い職場だと思います。同じく月2回のペースで学部の運営委員会というものがあります。学部執行部と学科主任による会議であり、ここでデザイン工学部全体のこと、全学のことについても知識が増えていきます。また、教授会に出ているだけではよく分からない学科間の問題、たまにはそれは少し軋んだものであったりもするのですが、皆、新しい学部を創ろうと張り切っている仲間ですので、少々の軋み程度はどこにでもある話でしょう。
2.市ヶ谷田町校舎での暮らし
デザイン工学部は入学定員280名。在籍数ベースでは4学年で1,316名います。今年4月からは大学院デザイン工学研究科が設置され、大学院生も市ヶ谷田町校舎にいますから、総勢約1,500名の学生がこのこじんまりとした校舎で学びます。大学院については、周辺に賃貸ビルの床を持っていて、ゼミ室の多くはそれらビルにタコ足状態になっています。よくいえば欧米式の街なか立地のキャンパスとも言えます。ただ、当学科の都市プランニング系と水文系、建築学専攻がゼミ室を構える民間ビル「フォーキャスト市ヶ谷」は、市ヶ谷田町校舎から徒歩12分、市ヶ谷橋を超え、靖国通りを新宿に向かった方にあります。大学院生たちは、授業やTAの度に暑い日も、雨の日も片道12分を歩いて行き来しています。私ども教員も往復に汗だくです。
市ヶ谷田町校舎だけをとれば、明らかに設置基準に満たない校舎設備でありまして、本当に芋洗い状態です。小さな講義室に沢山机を入れ、学生達を収容します。街なか立地の一面でもあり、東京都心の床の価値を考えさせられるものでもあります。教員が昼休みに学食を利用するなど全く迷惑、と思い昼食は前にずらしたり、後ろにずらしたり、抜いてしまったり。楽しくもある小さな住まいの暮らしであります。
3.デ工生が揃って
完成年度を迎え、3学科とも1年から4年までが揃いました。今年はデザイン工学部として初めての卒業生を送り出す訳ですし、当学科ではデザイン工学部として初めての卒業研究を実施中です。国土から都市、そして都市施設そのものや都市内の小空間までを扱う都市環境デザイン工学科、都市を構成する重要な要素である建築物を扱う建築学科、プロダクトレベルのサイズの物品、機器を対象とするシステムデザイン(SD)学科という、モノのサイズによる大中小を持つデザイン工学部。当然のことながら3学科が揃って一つのフィールドで研究や仕事をしてみたらどんな風に展開するのだろう、という興味が強くあります。もともとはそれぞれに作られた学科の集まりですから、そんな簡単に大中小の関係で密接に連携できるとは言えませんが、学部設立の趣旨、また初代学部長が提唱した「ホリスティックデザイン」の実践は中期的な目標であります。
そんな中、私の授業の一つである「公共空間デザイン」では、3学科に開いている共通科目で今年は都市環境/建築/ SDの履修登録者数がほぼ2:1:1だったものですから、これは面白いと思い、都市環境2人、建築1人、SD 1人の4人でチームを組ませ、具体的な都内の駅前地区を課題地区に与え、大中小の役割分担で計画、設計をやらせてみています。法土会OBの方々にはやや申し上げにくいのですが、当学科入学生は本来は建築希望であった者が少なからずいます。またSDはその特殊性が認められ、入学生の高いレベルを保っています。そんなことから、先程の運営委員会ではないのですが、学部内にはなんとなく当学科をそんな風に見ている雰囲気があるように思います。ただ、一つのフィールドを与えられ、総合的に計画する場合、都市環境デザイン工学科生がリーダーとなるべきことは明らかです。その授業では、無理を承知で当学科生を叱咤し、建築、SDの学生をリードすべく取り組むよう激励してはいるのですが。
4.「デザイン工学部」への期待と課題
先日親しくしている埼玉大学の建設工学科の先生を訪ねたところ「デザイン工学部」の名刺を見て、たいそう関心され、「欧米ではずいぶん前からこういった流れですよね。」と言われました。国が成熟し、総人口が減少していくような環境の中、種々の政策変化で土木・都市環境デザインといった分野の役割に陰りがあるように言われますが、では日本の国土、都市は今のままで維持管理していけば良いのかというと、決してそうではないと思います。安全・安心の観点から必要な施設整備はなお山積し、人々が暮らすための良好な空間があるか、と言われれば、まだまだと評価されるでしょう。そんな中、大中小の大きさ(当然ですが、大が偉いわけではなく、単に大きさです)を明快に備え、それぞれにわが国をリードするような地位を築いていくことで、デザイン工学部創設の目的に近づいていくものと考えます。少々大げさな結論ではありますが、名門大学で、都心立地で、かつ国際的流れにも合致する斬新な、デザイン工学部は、趣旨に従った3学科連携を進めるという期待を背負っていると考えています。
法土会のみなさまにおかれましても、当学部のこのような展開に興味、期待を持っていただき、適切に叱咤激励いただくとともに、ご専門の御立場からご一緒にこれを進めていけたら、と考えております。これからもどうぞよろしくお願いいたします。